大西製作所の万年筆——65歳で弟子入りした職人が継いだ、ビスコンティを削っていた道具

万年筆を「どこで削られたか」までさかのぼると、意外な名前が出てくることがある。イタリアのビスコンティが1990年代に出したセルロイド軸のモデルは、フィレンツェではなく大阪で作られていた。その工房の機械は、いまも東大阪の小さな作業場で回っている。
東大阪の、たった一人の工房
大西製作所は、町工場が並ぶ東大阪市長田西にある。作り手は大西慶造氏ただ一人。素材を棒から切るところから仕上げの研磨まで、すべて自分でやる。取扱店の職人.comは、朝日新聞2017年4月4日の記事をもとに、大西氏が15歳のときから半世紀以上にわたって筆記具に関わってきたと書いている。ただし「自分で軸を削る職人」になったのは、ずっとあとのことだ。
師匠はビスコンティを削っていた
大西氏は筆記具関係の会社を定年退職したあと、65歳で加藤清氏に弟子入りした。加藤氏のカトウセイサクショカンパニー(加藤製作所)は、セルロイドの筆記具を専門に手がける、世界でも数少ない会社だった。1961年ごろには「スペースマン」という自社ブランドで輸出し、エジプトのアレキサンドリアに工場を持っていた時期もある。そしてビスコンティの「マンハッタン」「ポンテベッキオ」「ラグタイム」「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は、ここで作られたものだ。
加藤氏は2010年1月に亡くなった。大西氏は翌2011年、加藤氏の機械と道具を引き継いで自分の工房を立ち上げる。生前の加藤氏は「もう教えることはない」と語っていたという。
セルロイドは継げなかった
継げなかったものもある。素材だ。日本ではセルロイドの生産が終わり、いま主に使われるのはアセテートとアクリルになった。一本ずつ柄の出方が違う点はセルロイドと変わらず、燃えやすさという難点がない。
約50工程を、一人で
住友電工ハードメタルの取材記事(2023年)によれば、大西氏は裁断・削り出し・穴あけなど約50の工程を一人でこなし、誤差は0.2ミリ以上出ないという。記事の時点で81歳。近年はアメリカ・イギリス・シンガポール向けの輸出が増え、新素材としてエボナイトの導入も検討していると書かれている。
買うときに見ておくところ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 軸の素材 | アセテート、アクリルなど |
| ペン先 | ドイツ・シュミット社製(スチール、金めっき) |
| 吸入方式 | カートリッジ/コンバーター両用(ヨーロッパタイプ) |
| 万年筆「さくら」 | 約137ר12mm、16,500円(税込) |
ペン先が自社製でないことを物足りなく感じる人もいるだろう。ただ、加藤氏が残した「余計な飾りは付けずに、安く良いものを」という方針からすれば、これはむしろ筋が通っている。
製作の様子は、職人.comチャンネル(登録者1,110人)が公開している動画で見られる。